〜“自由な学び”を求めて越境する家族たち〜
娘二人の大学受験がようやく終わった。
日本の受験よりも大変なのが、中国の教育だ。
なぜ中国人は教育のために国を出るのか?
■ 「いい教育を受けさせたい」。
それは世界中の親が抱く共通の願いだ。
しかし今、中国の家庭が「国を出てまで」追い求めているものは、ただの学歴やブランド校だけではない。
そこには、社会の在り方や教育の本質に対する問いかけが潜んでいる。
■ 受験戦争という名の“国家行事”
中国の大学受験「高考(ガオカオ)」は、毎年6月に行われる一大イベントだ。
全国一律の試験で1点の差が進学先を左右し、社会全体が数日間この試験のためにピリつく。
警察が受験生の通学路を確保し、近隣の工事現場が一時中断されるほどの国家的行事だ。
この“1発勝負”のシステムが、多くの若者にプレッシャーを与えてきた。
小学生のうちから塾に通い、親も教育ママ・パパに変貌する。「未来を勝ち取るには、今しかない」。そんな思想に支配され、子どもたちは遊ぶ時間すら奪われる。
この息苦しさから、子どもを解放したいと考える親たちは、次第に「教育移住」という選択肢に目を向けるようになった。
■ 海外へ。選ばれる“自由な教育”
移住先として人気なのは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、日本、シンガポールなど。共通しているのは「個性」や「創造性」を重視する教育スタイルだ。
たとえばカナダの学校では、グループディスカッションやプレゼンの機会が多く、成績はテストだけでなく日々の姿勢や発言も加味される。
芸術や体育も「評価対象」として大切にされ、学力一辺倒ではない多様な才能が伸びやすい。
中国の教育における「正解重視」の文化と異なり、海外では「問い続けること」「間違えること」を肯定する姿勢がある。
これに魅力を感じる家庭は年々増えている。
■ 中国社会の変化と“不安”
こうした教育移住を後押しするのは、単に教育スタイルの違いだけではない。
中国国内の社会的な変化も影響している。
近年、中国政府は教育産業への規制を強化し、民間学習塾の制限、宿題量の抑制、オンライン授業の制限などを行ってきた。
これは「教育格差の是正」を目指した政策ではあるものの、都市部の家庭にとっては「学ぶ自由」や「選択肢の減少」と映ることも多い。
また、政治的な制約や言論の自由への不安から、「思想教育から子どもを守りたい」と考える家庭も一部には存在する。
■ それでも「中国人」であること
教育のために海外へ出る。
それは決して“逃げ”ではない。
むしろ、自分たちの価値観と向き合い、「どんな未来を子どもに託したいか」を真剣に考えた結果の選択だ。
とはいえ、移住後の生活は決してバラ色ではない。
言語の壁、文化の違い、アイデンティティの揺れ。
子どもたちは新しい環境で適応を求められ、親もまた教育や生活の中で悩みを抱える。
それでも多くの家庭が、「この選択に後悔はない」と語る。
彼らは中国人であることを忘れず、ルーツを大切にしながらも、世界の中で学び、成長しようとしている。
■ 教育とは「自由を育てること」
中国から海外へ移り住む家族たちは、学歴や偏差値を超えた「真の教育」を求めている。
それは、自由に学び、自由に考え、自分で選び取る力を育てること。
そして今、その価値を信じて越境する人々が、静かに、しかし確実に増えている。
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